「それに対して」という表現は対比や対照を示す際によく使われますが、似た表現との違いや適切な使い分けに迷うことはありませんか?
本記事では「それに対して」の正確な意味から実践的な例文、さらには類似表現との違いまで詳しく解説します。
この記事でわかること
- 「それに対して」の基本的な意味と使用場面
- 「一方」「他方」など類似表現との違いと使い分け
- よくある誤用例と正しい使い方
- ビジネスや学術の場で使える実践的な例文集
- 「それに対して」の語源と文化的背景
「それに対して」の基本的な意味
「それに対して」は、先に述べた内容と明確に対比・対照する内容を導入する接続語です。
単なる話題の転換ではなく、前述の内容と後述の内容の間に対照的な関係や対立的な関係があることを示します。
辞書的定義
「それに対して」は「前述の事柄と比較対照して、異なる事柄や見解を述べる際に用いる接続語」と定義されます。
英語では「in contrast」「on the other hand」「whereas」などに相当します。
ニュアンスの特徴
「それに対して」のもつ主なニュアンスは「明確な対比」です。
単に別の話題を導入するのではなく、前述した内容と明らかに対照的な関係にあることを強調します。
「それに対して」と類似表現の比較表
表現 | 主な用途 | 対比の強さ | フォーマル度 |
---|---|---|---|
それに対して | 明確な対立・対照関係 | 強い | 高い |
一方(で) | 並列的な対比 | 中程度 | 高い |
他方(で) | 並列的な対比 | 中程度 | 高い |
反面 | 物事の別の側面 | 中程度 | 中程度 |
だが/しかし | 逆接関係 | 強い | 低〜中 |
「それに対して」は対比の強さが強く、かつフォーマル度が高いという特徴があります。
特に論文やビジネス文書などの公式な場面で効果的に使われます。
「それに対して」の使い分けポイント
「それに対して」はさまざまな状況で使用できますが、最も効果的に使用できるシーンとそのポイントを解説します。
対立する意見や見解を示す場合
2つの相反する意見や見解を比較する場合、「それに対して」は最適な接続語です。
🔹 ポイント: 賛否両論や対立する主張を並べる際に使用すると効果的です。
例:「専門家Aは景気回復を予測している。それに対して、専門家Bは景気後退の可能性を指摘している。」
対照的な状況や特性を説明する場合
明確に異なる特性や状況を比較する場合にも適しています。
🔹 ポイント: 単なる違いではなく、対照的な性質やはっきりとした違いがある場合に使用します。
例:「北海道は冬季の観光客が多い。それに対して、沖縄は夏季の観光客が多い。」
研究結果や調査データの比較の場合
データや研究結果の対比を示す場合にも有効です。
🔹 ポイント: 客観的なデータや事実の対比を示す際に使用すると説得力が増します。
例:「前年度の売上は10%増加した。それに対して、今年度の第1四半期は5%減少している。」
よくある間違い & 誤用例
「それに対して」の使用において、いくつかの誤用が見られます。
正しい使い方を理解するために、よくある誤用パターンを確認しましょう。
単なる追加情報に使用する誤り
🚫 「彼は英語が得意です。それに対して、フランス語も少し話せます。」
この例では対比関係ではなく、単に追加情報を述べているだけです。
✅ 「彼は英語が得意です。さらに、フランス語も少し話せます。」
✅ 「彼は英語が得意です。また、フランス語も少し話せます。」
因果関係を示す場合の誤用
🚫 「彼は一生懸命勉強した。それに対して、良い成績を取ることができた。」
この例では因果関係を示していますが、「それに対して」は対比関係を示すものです。
✅ 「彼は一生懸命勉強した。その結果、良い成績を取ることができた。」
接続詞の重複使用
🚫 「しかし、Aは賛成している。それに対して、Bは反対している。」
「しかし」と「それに対して」は似た機能を持つため、重複使用は避けるべきです。
✅ 「Aは賛成している。それに対して、Bは反対している。」
実践的な例文集
さまざまな場面での「それに対して」の実用的な例文を紹介します。
実際の使用シーンに合わせて参考にしてください。
ビジネスメールでの例文
提案や意見の対比
✅ 「A案では初期コストを抑えることができます。それに対して、B案では運用コストが長期的に削減できます。」
✅ 「前回のプレゼンでは製品機能を重視しました。それに対して、今回は顧客メリットを中心に構成しています。」
レポートや報告での使用
✅ 「東日本エリアでは前年比5%増の売上でした。それに対して、西日本エリアでは2%減となっています。」
✅ 「上半期は新規顧客の獲得に注力しました。それに対して、下半期はリピート率向上に力を入れる予定です。」
学術論文での例文
✅ 「従来の研究では環境要因が重視されてきた。それに対して、本研究では遺伝的要因の影響を検証する。」
✅ 「質的研究では少数のケースを深く分析する。それに対して、量的研究では多数のデータから傾向を見出す。」
日常会話での例文
✅ 「私は朝型人間なんだ。それに対して、妻は完全な夜型だよ。」
✅ 「子どもの頃は野菜が嫌いだった。それに対して、大人になった今は野菜中心の食生活を心がけている。」
「それに対して」の文化的背景
「それに対して」という表現の背景には、日本語の論理展開の特徴が現れています。
対比的思考の文化的側面
日本語の論理展開では、欧米言語のような直接的な反論ではなく、対比による婉曲的な表現が好まれる傾向があります。
「それに対して」はこうした日本的な論理展開の特徴を反映した表現と言えます。
歴史的変遷
「それに対して」は元々文語体の「それに対し」から発展し、現代語では「それに対して」という形が一般的になりました。
公式文書や論文では今でも「それに対し」という形が使われることもあります。
興味深い言語学的特徴
「それに対して」は指示語「それ」と助詞「に」、動詞「対する」の連用形「対して」から構成される複合接続語です。
このように複数の要素が結合して一つの機能語を形成することは、日本語の語形成における特徴的な現象です。
まとめ
「それに対して」は明確な対比や対照を示す接続語として、論文やビジネス文書から日常会話まで幅広く使われています。
効果的に使うためのポイントをおさらいしましょう。
覚えておきたいポイント
- 「それに対して」は単なる追加ではなく、明確な対立・対照関係を示す
- 類似表現(「一方」「他方」など)と目的に応じて使い分ける
- 誤用を避け、対比関係を明確にする場面で効果的に活用する
- フォーマルな文書や論理的な説明において特に有効
- 因果関係や追加情報には使わず、適切な接続語を選ぶ
対比や対照を示す表現は、論理的な文章を書く上で欠かせないスキルです。
「それに対して」の正しい使い方を理解し、より明確で説得力のある文章作成に役立ててください。
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よくある質問(FAQ)
Q1: 「それに対して」と「一方」はどう使い分ければよいですか?
A: 「それに対して」は対立・対照関係が強い場合に使用します。
「一方」はより中立的な並列的対比を示す場合に適しています。
例えば、「彼は数学が得意だ。一方、彼女は語学が得意だ」というのは単なる対比ですが、「彼は数学が得意だ。
それに対して、彼は語学が苦手だ」というのはより対照的な関係を強調しています。
Q2: 「それに対して」は会話でも使えますか?
A: はい、会話でも使用できますが、やや硬い印象を与えることがあります。
日常会話では「でも」「一方で」などのカジュアルな表現が好まれることもあります。
公式な場面やはっきりと対比したい場合に効果的です。
Q3: 「それに対し」と「それに対して」の違いは何ですか?
A: 本質的な意味の違いはなく、「それに対し」はやや文語的・格式高い表現、「それに対して」は口語的・一般的な表現という違いがあります。
論文や公式文書では「それに対し」が使われることも多いです。
Q4: 英語の「however」は「それに対して」と同じですか?
A: 「however」は主に「しかし」「だが」と訳される逆接の接続詞で、「それに対して」よりも逆接の意味合いが強いです。
「それに対して」に近い英語表現は「in contrast」「on the other hand」「whereas」などがより適切です。