日本語学習者や日本語を母国語とする方でも、「〜ている」と「〜てある」の使い分けに迷うことがあるのではないでしょうか。
この二つの表現は一見似ていますが、実は使用する場面やニュアンスに重要な違いがあります。
本記事では、「〜ている」と「〜てある」の基本的な意味の違いから、具体的な使い分けのポイント、よくある間違いまで詳しく解説します。
この記事を読めば、状態や結果を表す日本語表現を適切に使い分けられるようになります。
基本的な意味の違い
「〜ている」と「〜てある」は、どちらも物事の状態を表す表現ですが、焦点を当てる部分が異なります。
「〜ている」の基本的な意味
「〜ている」には主に2つの意味があります。
- 動作の継続: 現在進行中の動作を表します。
- 例:彼は本を読んでいる(読むという動作が継続している)
- 結果の状態: 動作が完了した後の状態を表します。
- 例:窓が開いている(誰かが窓を開けた結果、今も開いた状態)
「〜ている」は主に自然な成り行きや、行為者(主語)が意識されている場合に使われます。
つまり「誰が」という行為者が文脈上重要な場合に使用します。
「〜てある」の基本的な意味
「〜てある」は基本的に「結果の状態」を表しますが、その特徴は以下の通りです。
- 意図的な準備や配慮: 何かの目的のために、意図的に行われた動作の結果を表します。
- 例:部屋が掃除してある(誰かが意図的に掃除した結果)
- 行為者の背景化: 「誰が行ったか」より「何がなされているか」に焦点が当たります。
- 例:会議の資料が準備してある(誰が準備したかより、準備された状態が重要)
「〜てある」は日本語の受身表現に近いニュアンスを持ち、行為者よりも結果や状態を強調したい場合に使われます。
もし「部屋を片付けている」と言えば「私が今片付けている途中だ」という意味になりますが、「部屋が片付けてある」と言えば「すでに誰かが片付けを完了し、部屋が整った状態だ」というニュアンスになります。
これは水に例えると、「〜ている」は水が流れている動的な状態、「〜てある」は水が溜められている静的な状態と考えると分かりやすいでしょう。
使い分けのポイント
「〜ている」と「〜てある」の使い分けは、場面や意図によって変わります。
ここでは具体的な使い分けのポイントを解説します。
自動詞と他動詞による使い分け
動詞のタイプ | 〜ている | 〜てある |
---|---|---|
自動詞 | ◯ 使える | × 基本的に使えない |
他動詞 | ◯ 使える | ◯ 使える |
「〜てある」は基本的に他動詞(目的語を取る動詞)にしか使えません。
一方、「〜ている」は自動詞・他動詞どちらにも使えます。
- 自動詞の例:
- ◯「花が咲いている」(自動詞+ている)
- ×「花が咲いてある」(自動詞+てある)→不自然
- 他動詞の例:
- ◯「私は窓を開けている」(他動詞+ている)
- ◯「窓が開けてある」(他動詞+てある)
場面別の使い分け
1. 日常会話での使い分け
- 〜ている: 自然な状態や個人の動作を説明する場面
- 「彼は今勉強している」(現在の動作)
- 「電気がついている」(状態)
- 〜てある: 準備や対策が施されていることを伝える場面
- 「晩ご飯が作ってある」(準備されている)
- 「傘が玄関に置いてある」(意図的に置かれている)
2. ビジネスシーンでの使い分け
- 〜ている: 進行中の業務や現在の状況報告
- 「現在データを分析している最中です」
- 「システムが正常に動いています」
- 〜てある: 事前準備や業務の完了報告
- 「会議資料は全て印刷してあります」
- 「契約書にはすでにサインしてあります」
3. 文章・論文での使い分け
- 〜ている: 現象や傾向の記述
- 「この現象は広く観察されている」
- 「グラフは右肩上がりとなっている」
- 〜てある: 実験手順や準備状況の記述
- 「試料は5℃で保存してある」
- 「デバイスは特殊コーティングが施してある」
「〜てある」は特に「準備ができている」「対策が取られている」というニュアンスを伝えたい場合に効果的です。
また、「誰が行ったか」を明示せず、結果だけを客観的に示したい場合にも適しています。
よくある間違い & 誤用例
「〜ている」と「〜てある」の使い分けで、特によく見られる間違いとその修正例を紹介します。
1. 自動詞と「〜てある」の誤用
🚫 「電車が到着してある」(自動詞+てある)
✅ 「電車が到着している」(自動詞+ている)
自動詞には「〜てある」を使えないため、「到着する」という自動詞には「〜ている」を使います。
2. 意図的な行為ではない場合の誤用
🚫 「彼の顔が赤くなってある」
✅ 「彼の顔が赤くなっている」
自然な変化や無意識の状態には「〜てある」ではなく「〜ている」を使います。
3. 継続的な動作を「〜てある」で表現する誤用
🚫 「彼は本を読んでありました」
✅ 「彼は本を読んでいました」
進行中の動作には「〜ている」を使い、「〜てある」は使いません。
4. 行為者を強調したい場面での誤用
🚫 「私が窓を開けてある」
✅ 「私が窓を開けている」または「私によって窓が開けてある」
主語が行為者で、その行為を強調したい場合は「〜ている」を使います。
「〜てある」を使う場合は、行為者は通常背景化されます。
5. 無生物主語と人間の意図的行為の組み合わせ
🚫 「テーブルが料理を準備してある」
✅ 「テーブルに料理が準備してある」
「〜てある」を使う場合、主語は通常行為の対象となるものです。
「テーブルが準備する」のではなく「料理が準備される」の形が自然です。
これらの間違いは、言語学習者だけでなく、日本語母語話者でも時々見られます。
特に意図的な行為と自然な状態の区別がポイントとなります。
文化的背景・歴史的背景
「〜ている」と「〜てある」の違いには、日本語独特の表現文化が反映されています。
行為者の明示と省略の文化
日本語では「誰が行ったか」を明示しない表現が好まれる傾向があります。
「〜てある」はこうした日本語の特性を反映した表現で、行為者より結果状態を重視します。
この背景には、集団の調和を重んじ、個人の行為よりも全体の状況を優先する文化的背景があります。
日本語の受け身表現との関連
「〜てある」は日本語の受け身表現(〜られる)と似た側面を持っています。
どちらも行為者を背景化し、対象や結果状態に焦点を当てます。
室町時代以降の文献に「〜てあり」の形で登場し、江戸時代には現代とほぼ同じ用法で使われていました。
地域差と方言による違い
関西方言では「〜ている」の代わりに「〜とる」「〜てる」、「〜てある」の代わりに「〜たる」といった形を使うことがあります。
また、東北方言では「〜でら」という形で両方の意味を表すこともあります。
このような地域差も、日本語の豊かな表現文化の一部です。
「〜てある」が持つ「準備的」な意味合いは、先を見通し、事前に対応することを重視する日本文化とも関連していると言えるでしょう。
実践的な例文集
「〜ている」と「〜てある」の使い分けを実践的な例文を通して見てみましょう。
様々な場面での正しい使い方を確認してください。
日常会話での例文
〜ている
- 子供たちは公園で遊んでいる。(動作の継続)
- 彼女は長い髪を伸ばしている。(状態)
- この時計は10年前から動いている。(継続)
- あのケーキ、とてもおいしそうに見えている。(状態)
〜てある
- 夕食はすでに作ってある。(準備完了)
- 明日の会議の資料はカバンに入れてある。(意図的行為)
- 冷蔵庫の中に飲み物が冷やしてある。(目的を持った準備)
- 旅行のホテルは予約してある。(事前対応)
ビジネスシーンでの例文
〜ている
- 現在、新規プロジェクトの計画を検討している。(進行中)
- システムは正常に機能している。(状態)
- 彼は先週から休暇を取っている。(継続状態)
- 会社の業績は右肩上がりとなっている。(状態)
〜てある
- 契約書には重要な条項がハイライトしてある。(意図的準備)
- 会議室は既に予約してある。(事前手配)
- 取引先へのギフトは専用の箱に包装してある。(準備完了)
- 報告書はすべて修正してあります。(作業完了)
学術的・文学的表現
〜ている
- この化学反応は常温下で進行している。(自然現象)
- 古い写真には彼の若かりし姿が写っている。(状態)
- 彼の論文は多くの研究者に引用されている。(受動的状態)
- 月は地球の周りを回っている。(自然な動き)
〜てある
- この小説には作者の経験が反映してある。(意図的表現)
- 実験データは全て表にまとめてある。(整理された状態)
- 引用文には出典が明記してある。(意図的な情報提供)
- 古文書は特殊な薬品で処理してある。(保存目的の処置)
「〜ている」と「〜てある」を適切に使い分けることで、より自然で正確な日本語表現が可能になります。
とくに外国人学習者の方は、これらの例文を参考に実際の会話や文章で練習してみるとよいでしょう。
まとめ
「〜ている」と「〜てある」の違いと使い分けについて解説してきました。
覚えておきたいポイントをまとめます。
覚えておきたいポイント
- 「〜ている」は動作の継続と結果状態の両方を表し、自動詞・他動詞どちらにも使える
- 「〜てある」は意図的な行為の結果状態を表し、基本的に他動詞にのみ使える
- 「〜てある」は「誰が」より「何が」「どうなっているか」に焦点を当てる
- 自然な変化や無意識の状態には「〜ている」を使う
- 準備や対策のニュアンスを出したい場合は「〜てある」が効果的
- 自動詞には基本的に「〜てある」は使えないので注意
これらのポイントを意識して、状況に応じた適切な表現を選ぶことで、より自然で正確な日本語の使い分けが可能になります。
「〜ている」と「〜てある」の違いは微妙ですが、日本語らしい表現のために重要な要素です。
よくある質問(FAQ)
Q1: 「〜ておく」と「〜てある」の違いは何ですか?
A: どちらも準備的な意味を持ちますが、「〜ておく」は「将来のために今行う」という動作の側面を強調し、「〜てある」は「すでに準備が完了している」という結果状態を強調します。
- 例:「明日のために弁当を作っておく」(これから作る)
- 例:「明日の弁当はすでに作ってある」(すでに作り終えた状態)
Q2: 「窓が開いている」と「窓が開けてある」の違いは?
A: 「窓が開いている」は単に窓が開いた状態を述べているだけで、自然に開いたのか誰かが開けたのかは明示されません。
「窓が開けてある」は誰かが意図的に窓を開けたという行為が背景にあることを示します。
通常、「換気のため」などの目的があることが暗示されます。
Q3: 外国人学習者が「〜ている」と「〜てある」を区別するコツは?
A: 以下の点に注目すると区別しやすくなります。
- 自動詞か他動詞か(自動詞なら「〜ている」のみ)
- 意図的な行為の結果か(意図的なら「〜てある」が可能)
- 「誰が」を強調したいか「何が」を強調したいか
- 準備や対策のニュアンスがあるか
Q4: 「置いている」と「置いてある」の使い分けを教えてください。
A: 「本が棚に置いている」は不自然で、「本が棚に置いてある」または「本が棚に置かれている」が自然です。
「置く」は他動詞なので、「〜ている」形で使う場合は「私が本を置いている」(動作主+目的語+動詞)の形になります。
Q5: 受け身形「〜されている」と「〜てある」の違いは?
A: どちらも似た意味を持ちますが、「〜されている」は行為者の存在が意識され、「〜てある」は行為者より結果状態や目的に焦点が当たります。
- 例:「窓が開けられている」(誰かによって)
- 例:「窓が開けてある」(換気などの目的で)
初心者の方は、まず自動詞と他動詞の区別をしっかり学び、それから実際の会話の中で「〜ている」と「〜てある」の使い分けを意識してみるとよいでしょう。