「お願いします」の丁寧な言い方として、「お願いいたします」と「お願い申し上げます」がありますが、この二つにはどのような違いがあるのでしょうか。
ビジネスシーンや公式な場面で適切な敬語を使いたい方、敬意の度合いによって正しく使い分けたい方は必見です。
本記事では、「お願い申し上げます」と「お願いいたします」の違いを敬意レベルや使用シーン別に詳しく解説します。
結論から言うと、「お願い申し上げます」の方が「お願いいたします」よりも敬意の度合いが高く、より格式高い場面で使われる表現です。
基本的な意味の違い
「お願い申し上げます」と「お願いいたします」は、どちらも「お願いします」の敬語表現ですが、敬意の度合いに明確な違いがあります。
「お願いいたします」の意味と敬意レベル
「お願いいたします」は、「お願いします」の謙譲語表現です。
「する」を謙譲語の「いたす」に変えることで、話し手が自分を低めて相手に対する敬意を表現しています。
ビジネスシーンでの標準的な敬語表現として幅広く使われています。
例えば、以下のような会話を想像してみてください
- 「明日までに書類の提出をお願いいたします」
- 「少々お待ちいただきますよう、お願いいたします」
これらは日常的なビジネスコミュニケーションにおいて、丁寧さを表現するのに十分な敬意レベルです。
「お願い申し上げます」の意味と敬意レベル
「お願い申し上げます」は、「お願いいたします」よりもさらに敬意の度合いが高い表現です。
「申し上げる」という謙譲語の中でも特に高い敬意を示す言葉を使うことで、より深い敬意や謝意を表現します。
水面に石を投げたときの波紋をイメージしてみてください。
「お願いします」が小さな石なら、「お願いいたします」は中くらいの石、「お願い申し上げます」は大きな石です。
波紋の大きさが敬意の度合いを表しているのです。
使い分けのポイント
「お願い申し上げます」と「お願いいたします」の使い分けは、主に以下の要素によって決まります。
シーン別の使い分け
シーン | 適切な表現 | 例文 |
---|---|---|
日常的なビジネスメール | お願いいたします | ご確認のほど、よろしくお願いいたします。 |
社内会議 | お願いいたします | 次回の資料は事前に共有いただきますよう、お願いいたします。 |
取引先への重要な依頼 | お願い申し上げます | 特別なご配慮を賜りますよう、何卒お願い申し上げます。 |
謝罪文書 | お願い申し上げます | 今後このようなことがないよう徹底いたしますので、ご理解いただきますよう心よりお願い申し上げます。 |
式典・祝辞 | お願い申し上げます | 今後とも変わらぬご支援を賜りますよう、謹んでお願い申し上げます。 |
相手の立場による使い分け
「お願い申し上げます」は、特に以下のような相手に対して使用されます
- 社外の重要な取引先や顧客
- 自社よりも格上の企業や組織
- 社会的地位の高い人物
- 公的機関や官公庁
一方、「お願いいたします」は以下のような場面で適切です
- 社内のコミュニケーション
- 同格または近い関係の取引先
- 日常的なビジネス連絡
フォーマリティによる使い分け
文書や場面のフォーマリティによっても使い分けが変わります
- 高いフォーマリティ(公式文書、契約書、式典など):「お願い申し上げます」
- 標準的なフォーマリティ(通常のビジネスメール、会議など):「お願いいたします」
- カジュアルなビジネスシーン(社内メール、日常会話):「お願いします」または「お願いいたします」
よくある間違い & 誤用例
「お願い申し上げます」と「お願いいたします」の使用において、よくある間違いをチェックしましょう。
過剰な敬語使用
🚫 誤: 社内の同僚に「書類の提出をお願い申し上げます」
✅ 正: 社内の同僚に「書類の提出をお願いします」または「書類の提出をお願いいたします」
理由:社内の同僚に対して「お願い申し上げます」は敬意が高すぎるため、不自然な印象を与えます。
敬語の重複
🚫 誤: 「ご確認のほど、よろしくお願い申し上げさせていただきます」
✅ 正: 「ご確認のほど、よろしくお願い申し上げます」
理由:「申し上げる」と「させていただく」の重複は過剰な敬語となります。
フォーマルな場面での敬意不足
🚫 誤: 重要な取引先への謝罪文で「今後ともよろしくお願いします」
✅ 正: 重要な取引先への謝罪文で「今後ともよろしくお願い申し上げます」
理由:謝罪文や重要な取引先に対しては、より高い敬意を示す「お願い申し上げます」が適切です。
文化的背景・歴史的背景
日本語の敬語は、古くから階層社会を反映して発展してきました。
特に「申し上げる」という表現は、平安時代から使われてきた由緒ある敬語です。
「申す」は「言う」の謙譲語として古典文学にも頻繁に登場し、それに「上げる」が加わることで、相手を高い位置に置き、自分を低くする(言葉を「上に差し上げる」)という意識が表現されています。
一方、「いたす」も古くからある謙譲語ですが、「申し上げる」ほどの格式高さはありませんでした。
現代のビジネス敬語として「いたす」は日常的に使用される謙譲語として定着しています。
このような歴史的背景が、現代における「お願い申し上げます」と「お願いいたします」の敬意レベルの違いにつながっているのです。
実践的な例文集
様々なシーンでの「お願い申し上げます」と「お願いいたします」の使用例をご紹介します。
ビジネスメールでの使用例
取引先への依頼(高い敬意): 「納期の延長について、特別なご配慮を賜りますよう、何卒お願い申し上げます。」
社内連絡(標準的な敬意): 「会議資料の事前確認をよろしくお願いいたします。」
ビジネス文書での使用例
お詫び状(高い敬意): 「このたびは多大なるご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません。今後はこのようなことがないよう万全を期してまいりますので、何卒ご容赦いただきますようお願い申し上げます。」
依頼状(標準的な敬意): 「当社製品についてのアンケート調査にご協力いただきますよう、お願いいたします。」
スピーチや挨拶での使用例
式典でのスピーチ(高い敬意): 「皆様のご健勝とご多幸を心より祈念いたしますとともに、今後とも変わらぬご支援を賜りますよう、謹んでお願い申し上げます。」
社内発表(標準的な敬意): 「新プロジェクトへのご協力をよろしくお願いいたします。」
言い換え表現
「お願い申し上げます」の言い換え
- 「何卒お願い申し上げます」
- 「謹んでお願い申し上げます」
- 「切にお願い申し上げます」
「お願いいたします」の言い換え
- 「よろしくお願いいたします」
- 「ご協力をお願いいたします」
- 「ご理解いただきますようお願いいたします」
まとめ
「お願い申し上げます」と「お願いいたします」の違いと使い分けについて解説してきました。
覚えておきたいポイントは以下の通りです
- 「お願い申し上げます」は「お願いいたします」よりも敬意レベルが高い
- 重要な取引先、公式文書、謝罪文書には「お願い申し上げます」が適切
- 日常的なビジネスシーン、社内連絡には「お願いいたします」が適切
- 相手の立場、シーンのフォーマリティによって使い分ける
- 過剰な敬語や敬語の重複には注意する
適切な敬語の使い分けは、ビジネスコミュニケーションの質を高め、相手に対する敬意を適切に表現するために重要です。
状況に応じて「お願い申し上げます」と「お願いいたします」を適切に使い分けましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1: 「お願い申し上げます」と「お願い申し上げる次第です」の違いは何ですか?
A: 「お願い申し上げる次第です」は「お願い申し上げます」よりもさらに格式高い表現です。
特に文書での締めくくりとして使われることが多く、「次第です」を加えることで、「このような事情・理由からお願いします」という意味合いが加わります。
公式文書や目上の方への依頼文などで使用されます。
Q2: メールの締めくくりに「よろしくお願いいたします」と「よろしくお願い申し上げます」のどちらを使うべきですか?
A: 一般的なビジネスメールでは「よろしくお願いいたします」で十分ですが、特に重要な取引先や目上の方へのメール、または謝罪や重要な依頼を含むメールでは「よろしくお願い申し上げます」がより適切です。
相手との関係性や内容の重要度によって使い分けましょう。
Q3: 「お願い申し上げます」は口頭でも使いますか?
A: はい、使います。特に公式なスピーチ、プレゼンテーション、重要な取引先との会議などのフォーマルな場面では口頭でも「お願い申し上げます」を使用することが適切です。
ただし、日常的な会話では少し硬い印象を与えることがあるため、通常の会話では「お願いいたします」が自然です。
Q4: 「お願い致します」と「お願いいたします」に違いはありますか?
A: 意味的には同じですが、表記が異なります。
「致します」は漢字表記、「いたします」はひらがな表記です。
ビジネス文書では「いたします」のひらがな表記が一般的ですが、どちらも正しい表記です。
最近のビジネス文書では、読みやすさを重視してひらがな表記が好まれる傾向にあります。