ビジネス文書やメールを書く際、冒頭でよく使われる「このたび」「今回」「今般」。
似たような意味を持つこれらの表現ですが、使い方を間違えると失礼になったり、プロフェッショナルな印象を損なったりすることがあります。
本記事では、これらの言葉の意味の違いや正しい使い分けについて、具体的な例文と共に徹底解説します。
この記事でわかること
- 「このたび」「今回」「今般」の基本的な意味の違い
- ビジネスシーンでの適切な使い分け方
- 書き出し表現としての正しい使用法と例文
- 失礼にならない丁寧な表現のコツ
- コピーして使えるビジネス文書テンプレート
「このたび」「今回」「今般」の基本的な意味の違い
ビジネス文書の書き出しでよく使用されるこれらの表現には、それぞれ微妙なニュアンスの違いがあります。
まずは基本的な意味を理解しましょう。
比較表:基本的な意味とニュアンスの違い
表現 | 基本的な意味 | 丁寧さのレベル | よく使われるシーン |
---|---|---|---|
このたび | 「この度」「この節」という意味で、特定の機会や出来事を指す | 最も丁寧・格式高い | お詫び、お礼、報告、案内など改まった場面 |
今回 | 現在の特定の機会や今度の事案を指す | 標準的・汎用的 | 一般的な報告、連絡、案内など幅広いシーン |
今般 | 「このほど」「この頃」という意味で、現在の状況や時期を指す | やや格式高い | 公文書、社内外の重要な通達など |
「このたび」は最も格式が高く丁寧な表現で、謝罪や重要な通知など、特に改まった場面で使われます。
「今回」は日常的なビジネスシーンで汎用的に使える表現です。
「今般」は「このたび」と「今回」の中間に位置し、公式な文書で使われることが多い表現です。
ビジネス文書における格式の高さは「このたび」>「今般」>「今回」の順で、状況に応じて適切な表現を選ぶことが重要です。
使い分けのポイント
これらの表現は、ビジネスシーンによって使い分けるべきです。
以下に具体的な使い分けのポイントをご紹介します。
「このたび」を使うべき場面
「このたび」は最も丁寧で格式高い表現であり、以下のような場面で適しています。
- お詫び文書:「このたび、弊社の不手際により…」
- お礼状:「このたび、ご厚情を賜り…」
- 人事異動の通知:「このたび、人事異動がございましたので…」
- 重要な報告:「このたび、新システムの導入が決定いたしました…」
特に社外向けの重要な文書や、取引先への丁寧な伝達が必要な場合に適しています。
「今回」を使うべき場面
「今回」は最も一般的で汎用性の高い表現です。
- 一般的な案内:「今回のセミナーについて…」
- 定例報告:「今回の売上実績について…」
- 社内連絡:「今回の会議について…」
- イベント告知:「今回のキャンペーンでは…」
日常的なビジネスコミュニケーションや、比較的カジュアルな場面で使用します。
「今般」を使うべき場面
「今般」はやや古めかしさもありますが、公式な場面で使われる表現です。
- 公文書:「今般の法改正に伴い…」
- 重要な社内通達:「今般、組織改編を実施することとなりました…」
- 業界全体への通知:「今般の市場環境の変化を受けて…」
- 正式な決定事項の伝達:「今般、取締役会にて承認されました…」
特に公的な文書や全社的な重要な決定事項を伝える場合に適しています。
よくある間違い & 誤用例
これらの表現を間違えると、文書の印象や伝わり方に影響します。
以下によくある間違いと正しい使い方を示します。
「このたび」の誤用と正用
🚫 誤用例
「このたび、明日の会議の場所が変更になりましたのでお知らせします。」
✅ 正用例
「今回、明日の会議の場所が変更になりましたのでお知らせします。」
解説
単なる場所変更の連絡には「このたび」は大げさすぎます。
日常的な連絡には「今回」が適切です。
🚫 誤用例
「このたび、新商品のパンフレットを同封いたしますので、ご確認くださいませ。」
✅ 正用例
「今回、新商品のパンフレットを同封いたしますので、ご確認くださいませ。」
解説
日常的な案内には「このたび」は少し重すぎます。
「今回」の誤用と正用
🚫 誤用例
「今回、弊社の重大なミスにより多大なるご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。」
✅ 正用例
「このたび、弊社の重大なミスにより多大なるご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。」
解説
重大な謝罪の場面では「今回」では軽すぎます。
謝罪には「このたび」を使うのが適切です。
「今般」の誤用と正用
🚫 誤用例
「今般、チーム内の飲み会を来週金曜日に開催します。」
✅ 正用例
「今回、チーム内の飲み会を来週金曜日に開催します。」
解説
カジュアルな飲み会の案内に「今般」は堅すぎます。
「今回」を使うのが自然です。
実践的な例文集
以下に、様々なビジネスシーンでの具体的な使用例文をご紹介します。
これらはコピーして実際のビジネス文書に活用できます。
ビジネスメールの例文
お詫びメール
件名:【お詫び】納品遅延について
〇〇株式会社
△△部 □□様
いつもお世話になっております。
◇◇株式会社の山田太郎でございます。
このたび、弊社の生産管理の不手際により、ご注文いただいた商品の納品が遅延する事態となりました。
お客様のご期待に添えず、誠に申し訳ございません。
案内メール
件名:【ご案内】新サービス開始について
〇〇株式会社
△△部 □□様
平素より大変お世話になっております。
◇◇株式会社の鈴木花子でございます。
今回、弊社では新サービス「〇〇〇〇」の提供を6月1日より開始することとなりましたので、ご案内申し上げます。
重要な通達
件名:【重要】組織変更に関するお知らせ
社員各位
今般、経営環境の変化に対応するため、下記の通り組織変更を実施することとなりましたので、お知らせいたします。
ビジネス文書の例文
社外向け報告書
拝啓 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
このたび、20XX年度第2四半期の業績報告書をお送りいたします。
当期間における弊社の業績は、前年同期比110%と順調に推移しております。
プレスリリース
【プレスリリース】
今般、当社グループは環境負荷低減への取り組みの一環として、全事業所における再生可能エネルギー100%活用へのロードマップを策定いたしましたので、お知らせいたします。
お礼状
拝啓 初夏の候、貴社ますますご発展のこととお慶び申し上げます。
このたび、弊社主催のセミナーにご参加いただき、誠にありがとうございました。
おかげさまで盛況のうちに終えることができました。
文化的背景・歴史的背景
これらの表現の使い分けには、日本のビジネス文化における「格式」と「場の重要性」が反映されています。
「このたび(この度)」は古くから公式な文書や書状で使われてきた表現で、和歌や古文にも登場します。
「〜の段」や「〜の折」という意味合いを持ち、特別な機会や重要な出来事を示す際に用いられてきました。
「今般」は明治時代以降の公文書でよく使われるようになった表現で、漢語由来の堅い表現です。
「般」という字は「すべて」「広く」という意味を持ち、広範囲に影響する事柄を示す際に適しています。
「今回」は比較的新しい表現で、現代のビジネスシーンで最も汎用的に使われています。
これは日本のビジネス文化が戦後に簡素化・合理化されていく中で広まった表現と言えます。
このような表現の使い分けは、日本語特有の「場」に応じた言葉遣いの文化を反映しており、適切な表現を選ぶことがビジネスマナーの一部として重視されています。
まとめ
ビジネス文書の書き出し表現として使われる「このたび」「今回」「今般」は、それぞれ異なるニュアンスと適切な使用場面があります。
覚えておきたいポイント
- 「このたび」:最も丁寧で格式高い表現。お詫びや重要な報告など、特に改まった場面で使う
- 「今回」:最も汎用的な表現。日常的な連絡や案内など幅広いシーンで使える
- 「今般」:やや格式高い表現。公文書や重要な通達など、公式な場面で使われる
- 文書の重要性・公式性・相手との関係性に応じて適切に使い分けることが、ビジネスコミュニケーションの基本
適切な書き出し表現を使うことで、ビジネス文書の印象が大きく変わります。
状況に応じた正しい使い分けを意識して、プロフェッショナルな文書作成を心がけましょう。
関連記事:「謹啓」「拝啓」の違いと使い分け、ビジネス文書における結びの表現もぜひご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1: 「このたび」は漢字で「この度」と書いてもよいですか?
A: はい、「このたび」は「この度」と漢字で書いても問題ありません。
どちらも同じ意味で使われますが、近年ではひらがなで「このたび」と書くことも増えています。
特に社内文書では「このたび」、より格式高い文書では「この度」と使い分ける場合もあります。
Q2: 「今回」は目上の人への文書でも使えますか?
A: 目上の人や取引先などへの文書でも「今回」は使用できますが、特に重要な報告や謝罪の場面では「このたび」の方が適切な場合があります。
ただし、日常的な連絡事項であれば「今回」でも失礼にはあたりません。
Q3: 「このたび」と「今般」はどちらが格式高いですか?
A: 一般的には「このたび」の方が「今般」よりも格式高い印象を与えます。
「このたび」は特に謝罪や感謝の表現と相性がよく、「今般」は公式な発表や通達に適しています。
Q4: 英語のビジネスメールでは、これらの表現はどう訳されますか?
A: 英語では文脈によって異なりますが、一般的には以下のように訳されます。
- 「このたび」:We would like to inform you that… / We regret to inform you that…
- 「今回」:This time, / In this case, / For this occasion,
- 「今般」:Recently, / We hereby announce that…
状況に応じた適切な英語表現を選ぶことが重要です。