時候の挨拶で使われる「〜の候」「〜の折」「〜のみぎり」「〜の節」は、それぞれ微妙な違いと使い分けのルールがあります。
この記事では、4つの表現の意味・語源から具体的な使い分け方法まで、ビジネス文書や手紙で迷わないための完全ガイドを解説します。
格式の違い、相手との関係性、文脈に応じた最適な選び方がわかります。
この記事を読めば、どんな場面でも適切な時候の挨拶表現を使い分けることができるようになります。
時候の挨拶4表現の基本的な意味
共通する基本的な意味
「候」「折」「みぎり」「節」は、いずれも「時期」「季節」「頃」を表す言葉です。
時候の挨拶では
- 「〜の候」 = 〜の季節になりましたが
- 「〜の折」 = 〜の時期ですが
- 「〜のみぎり」 = 〜の頃ですが
- 「〜の節」 = 〜の時節ですが
という意味で使われ、基本的には同じ内容を表現しています。
それぞれの特徴と位置づけ
表現 | 読み方 | 格式 | 使用頻度 | 特徴 |
---|---|---|---|---|
候 | こう | 高い | ★★★★★ | 最も一般的で万能 |
折 | おり | 中程度 | ★★★☆☆ | 親しみやすさと格式のバランス |
みぎり | みぎり | 高い | ★★☆☆☆ | 上品で女性的な印象 |
節 | せつ | 中程度 | ★☆☆☆☆ | やや硬い印象、限定的使用 |
「候」(こう)の詳細解説
基本的な意味と語源
「候」は、元々中国古代の天文観測に由来する言葉です。
- 語源: 天候や季節の変化を観測する「候う(うかがう)」から
- 本来の意味: 気象の変化、季節の移り変わり
- 現代の用法: 時候の挨拶で最も一般的な表現
「候」の使い方と特徴
✅ 適用場面
- 公式文書・ビジネス文書: 最も適している
- 目上の方への手紙: 格式が高く適切
- 改まった挨拶状: 定番表現
- 迷った時の安全選択: 万能で失敗しない
使用例
- 「盛夏の候、貴社におかれましてはますますご繁栄のこととお慶び申し上げます」
- 「新緑の候、皆様にはお健やかにお過ごしのことと存じます」
- 「厳寒の候、いかがお過ごしでしょうか」
「候」の読み方注意点
- 正しい読み方: 「こう」
- 間違いやすい読み方: 「そうろう」(これは古文での別の意味)
- 時候の挨拶では必ず「こう」と読む
「折」(おり)の詳細解説
基本的な意味と語源
「折」は、時間の区切りや変化点を表す言葉です。
- 語源: 物を折ることで生じる「折り目」「転換点」から
- 意味の展開: 折り目 → 変化点 → 時期・機会
- 特徴: より具体的な時点を指すニュアンス
「折」の使い方と特徴
✅ 適用場面
- 親しい関係のビジネス相手: 格式と親しみのバランス
- 日常的な手紙・メール: カジュアルすぎず硬すぎない
- お世話になった方への挨拶: 感謝の気持ちを込めて
- 具体的な機会・時期を指す場合: より自然
使用例
- 「梅雨明けの折、皆様にはますますご健勝のこととお喜び申し上げます」
- 「年度末のお忙しい折、お世話になっております」
- 「酷暑の折、くれぐれもご自愛ください」
「折」独特の使用パターン
■ 機会・タイミングを表す用法
「お近くにお越しの折には、ぜひお立ち寄りください」
「お時間のございます折に、ご連絡いただければ幸いです」
■ 状況・場面を表す用法
「ご多忙の折、申し訳ございません」
「このような折に、お手紙をいただき」
「みぎり」の詳細解説
基本的な意味と語源
「みぎり」は、非常に上品で格式高い表現です。
- 語源: 「水限(みぎり)」= 雨滴の落ちる境界線
- 意味の展開: 水際 → 境界 → 時の境目 → 時期
- 漢字表記: 「砌」(みぎり)
- 特徴: 女性的で優雅な印象を与える
「みぎり」の使い方と特徴
✅ 適用場面
- 格式を重視する場合: 最も上品な表現
- 女性からの手紙: 伝統的に女性がよく使用
- 文学的・芸術的な文書: 美しい表現を求める場合
- 茶道・華道など伝統的分野: 文化的背景に適合
使用例
- 「新春のみぎり、皆様にはお健やかに新年をお迎えのこととお慶び申し上げます」
- 「桜満開のみぎり、春の訪れに心躍る季節となりました」
- 「紅葉のみぎり、秋の深まりを感じる今日この頃です」
「みぎり」使用時の注意点
⚠️ 使用上の配慮事項
■ 文体との調和
→ 他の文章も上品で丁寧な表現に統一する
→ カジュアルな文章との混在は避ける
■ 相手との関係性
→ 初対面や堅いビジネス関係では慎重に
→ 親しい関係や文化的素養のある相手に適している
■ 頻度の調整
→ 多用しすぎると装飾的になりすぎる
→ 特別な場面での使用が効果的
「節」(せつ)の詳細解説
基本的な意味と語源
「節」は、物事の区切りや重要な時点を表す言葉です。
- 語源: 竹の節目から「区切り」「段階」の意味
- 用法の特徴: やや硬い印象、使用頻度は限定的
- 現代での位置づけ: 「候」「折」「みぎり」の補完的表現
「節」の使い方と特徴
✅ 適用場面
- 年賀状・季節の変わり目: 「節」の本来的意味に適合
- 公的な文書: やや硬い文体に調和
- 伝統的な表現を重視する場合: 古典的な美しさ
- 特定の慣用表現: 決まった用法での使用
使用例
- 「新年の節、謹んでお喜び申し上げます」
- 「春暖の節、皆様にはますますご清栄のこととお慶び申し上げます」
- 「歳末の節、本年中は格別のご高配を賜り」
「節」の特殊な用法
■ 慣用的な表現での使用
「その節は(その時は)」
「この節(この頃)」
「年の節(年末年始)」
■ 二十四節気との組み合わせ
「立春の節」「夏至の節」「秋分の節」
※ただし一般的には「〜の候」の方が多用される
4表現の使い分けガイド
相手・場面別の選び方
🏢 ビジネス・公式文書
【最適】候 > 折 > みぎり > 節
✅ 迷った時は「候」が最も安全
✅ 親しい取引先なら「折」も適切
✅ 格式重視なら「みぎり」
✅ 「節」は限定的な使用に留める
👥 個人的な手紙・挨拶状
【バランス重視】折 > みぎり > 候 > 節
✅ 親しみと格式のバランスなら「折」
✅ 上品さを重視するなら「みぎり」
✅ 格式を重視するなら「候」
✅ 「節」は特別な場合のみ
💐 女性からの手紙
【伝統的選択】みぎり > 折 > 候 > 節
✅ 上品で女性らしい印象の「みぎり」
✅ 自然な親しみやすさの「折」
✅ 確実な格式の「候」
文体・表現レベル別の使い分け
非常に格式高い文書
1位: みぎり(最上品)
2位: 候(標準的格式)
3位: 節(やや硬い格式)
4位: 折(格式と親しみのバランス)
一般的なビジネス文書
1位: 候(万能で安全)
2位: 折(親しみやすさも重視)
3位: みぎり(特別感を演出)
4位: 節(限定的使用)
親しい関係の手紙
1位: 折(自然で親しみやすい)
2位: 候(確実で失敗しない)
3位: みぎり(特別感がある)
4位: 節(やや硬すぎる場合も)
実践的な使い分け例文集
シーン別比較例文
新年の挨拶
- 候: 「新春の候、皆様にはお健やかに新年をお迎えのこととお慶び申し上げます」
- 折: 「新年を迎えた折、昨年中のご厚情に心より感謝申し上げます」
- みぎり: 「新春のみぎり、皆様のご多幸を心よりお祈りいたします」
- 節: 「新年の節、謹んで年頭のご挨拶を申し上げます」
夏の暑中見舞い
- 候: 「盛夏の候、貴社におかれましてはますますご繁栄のこととお喜び申し上げます」
- 折: 「暑さ厳しき折、皆様にはいかがお過ごしでしょうか」
- みぎり: 「猛暑のみぎり、皆様のご健勝を心よりお祈り申し上げます」
- 節: 「大暑の節、暑中お見舞い申し上げます」
秋の時候の挨拶
- 候: 「紅葉の候、秋の深まりを感じる季節となりました」
- 折: 「朝夕涼しくなった折、いかがお過ごしでしょうか」
- みぎり: 「紅葉のみぎり、秋の美しさに心癒される日々です」
- 節: 「晩秋の節、木の葉も色づく季節となりました」
同じ季節表現での4パターン比較
「春暖」を使った場合
■ 春暖の候(最も一般的・安全)
→ ビジネス全般で使用可能
■ 春暖の折(親しみやすい)
→ 日常的な関係の相手に適している
■ 春暖のみぎり(上品・格式高い)
→ 特別感を演出したい場合
■ 春暖の節(やや硬い・限定的)
→ 公的文書や伝統重視の場合
よくある間違いと注意点
❌ よくある間違い
読み方の誤り
❌ 候を「そうろう」と読む
✅ 候は「こう」と読む
❌ みぎりを「砌り」と送り仮名をつける
✅ みぎりは「みぎり」(送り仮名なし)
使い分けの誤り
❌ カジュアルな文章に「みぎり」を多用
✅ 文体全体の格式と調和させる
❌ 同じ文書内で複数の表現を混在
✅ 一つの文書では表現を統一する
時期の不適切な使用
❌ 梅雨の時期に「盛夏のみぎり」
✅ 実際の季節感に合わせた表現選択
❌ 冷夏の年に「猛暑の候」
✅ その年の実際の気候に配慮
⚠️ 使用時の注意点
「みぎり」使用時の特別な配慮
■ 文章全体の格調を上品に統一
■ 相手の文化的素養を考慮
■ 使いすぎて装飾過多にならないよう注意
■ 男性が使用する場合は場面を選ぶ
「節」使用時の留意事項
■ やや硬い印象を与えることを理解
■ 親しい関係では距離感が生まれる場合も
■ 慣用表現以外では使用頻度を控えめに
■ 「候」「折」で十分な場合は無理に使わない
現代ビジネスでの推奨使い分け
📊 使用頻度の目安(ビジネス)
表現 | 推奨度 | 使用場面 | 使用頻度目安 |
---|---|---|---|
候 | ★★★★★ | あらゆるビジネス場面 | 70% |
折 | ★★★★☆ | 親しい関係・日常業務 | 20% |
みぎり | ★★★☆☆ | 格式重視・特別な場面 | 8% |
節 | ★★☆☆☆ | 限定的・伝統重視 | 2% |
💼 ビジネス場面別推奨表現
新規取引先・公式文書
- 第1選択: 候(最も安全で適切)
- 第2選択: みぎり(格式を重視する場合)
- 避けるべき: 過度にカジュアルな表現
既存取引先・日常業務
- 第1選択: 候(確実で失敗なし)
- 第2選択: 折(親しみやすさも重視)
- 第3選択: みぎり(特別感を演出)
社内文書・親しい関係
- 第1選択: 折(自然で親しみやすい)
- 第2選択: 候(格式も保ちたい場合)
- 使用可能: みぎり(個性を表現したい場合)
まとめ:迷わない選び方
🎯 基本的な選択指針
迷った時の安全な選択
✅ 「候」を選べば間違いなし
→ あらゆる場面で使用可能
→ 相手に失礼になることがない
→ 格式と親しみのバランスが良い
関係性重視の選択
✅ 親しい関係なら「折」
→ 自然で温かみのある印象
→ 格式を保ちつつ親しみやすさも演出
✅ 格式重視なら「みぎり」
→ 上品で特別感のある印象
→ 文化的素養をアピール
場面別の最適選択
🏢 ビジネス → 候・折を中心に
💌 個人的な手紙 → 折・みぎりを中心に
📄 公式文書 → 候・みぎりを中心に
🎌 伝統的場面 → みぎり・節を活用
📝 実用的な使い分けまとめ
時候の挨拶における「候」「折」「みぎり」「節」の使い分けは、相手との関係性、文書の格式、表現したい印象によって選択します。
- 「候」:万能で失敗しない定番表現
- 「折」:親しみやすく自然な印象
- 「みぎり」:上品で格式高い特別感
- 「節」:やや硬い印象の限定的表現
適切な選択により、相手への敬意と季節への感性を示し、より良いコミュニケーションを築くことができます。
まずは「候」から始めて、関係性や場面に応じて他の表現も使い分けてみてください。
✍ テンプレートで解決|すぐ使えるビジネス文例集
実用的な文例やテンプレートで、業務の”言葉の悩み”をスムーズに解決。
🔥 よく読まれている人気コンテンツ
読者の支持が高い、実用度の高い定番記事です。
📚 正しい言葉選びを深める|”時候・敬語”に関する使い分けと表現の違い
「”拝啓”と”謹啓”、”敬具”と”謹言”の違いをご存じですか?」
時候の挨拶でよく使われる敬語表現の”意味の違いと適切な使い分け”を解説した専門記事をご紹介します。
- 拝啓・謹啓・恭啓の違いと使い分け|ことばノート
- 敬具・謹言・謹白の違いと選び方|ことばノート