過去から現在までの時間を表す「今まで」「これまで」「従来」。
一見似ているようで、それぞれに微妙な違いがあります。
特にビジネスシーンでは適切な使い分けが求められますが、多くの人がその違いに迷いを感じています。
本記事では、これらの言葉の意味の違い、適切な使い分け方、言葉の背景について詳しく解説します。
結論として、「今まで」は話し手の主観的な時間経過、「これまで」はより客観的・形式的な時間の流れ、「従来」は過去の状態や方法に焦点を当てた表現です。
適切に使い分けて、より正確で洗練された日本語を目指しましょう。
基本的な意味の違い
「今まで」「これまで」「従来」は、いずれも過去から現在までの時間や状態を表す表現ですが、それぞれのニュアンスと使われる文脈には明確な違いがあります。
「今まで」の意味
「今まで」は、過去のある時点から発話時点(現在)までの時間の経過を表します。
主に話し言葉でよく使われ、話し手の主観的な時間感覚や個人的な経験に基づいた表現です。
「今」という言葉が含まれるように、現在の時点を強く意識した表現となります。
例えば、「今まで一度も海外に行ったことがない」という文では、話し手の生まれてから現在までの個人的経験について述べています。
「これまで」の意味
「これまで」も過去から現在までの時間を表しますが、「今まで」と比較するとより客観的・形式的なニュアンスを持ちます。
ビジネス文書や公式文書などでよく使われ、個人的な感情よりも事実や実績を述べる際に適しています。
たとえば、「弊社ではこれまで50カ国以上に製品を輸出してきました」という文では、会社の実績を客観的に述べています。
「従来」の意味
「従来」は、過去の一般的な状態や方法を指し、現在と対比させる意味合いが強いです。
特に変化や革新を述べる際に、以前の状態を指す言葉として使われます。
「従来」には「従う」という字が含まれるように、過去から続いてきた状態や慣習を表現します。
例えば、「従来の方法では対応できない問題が増えている」という文では、以前から使われてきた方法と現在の状況を対比させています。
わかりやすく例えるなら、「今まで」は個人の人生日記、「これまで」は会社の公式記録、「従来」は歴史書の中の「以前の時代」のような違いがあると言えるでしょう。
使い分けのポイント
これら3つの表現の適切な使い分けは、コミュニケーションの場面や目的によって変わってきます。
状況に応じた効果的な使い分けのポイントを見ていきましょう。
日常会話での使い分け
日常会話では、「今まで」が最も自然な表現として使われます。
個人の経験や感情を伝える際に適しています。
- 「今まで見た映画の中で最高だった」
- 「今まで何度も挑戦してきたけど、うまくいかなかった」
一方、「これまで」は少しフォーマルな印象を与えるため、改まった場面や客観的な事実を述べる場合に使います。
- 「これまでの経験を活かして新しい挑戦をしたい」
- 「これまでの研究結果をまとめると…」
「従来」は日常会話では比較的使用頻度が低く、特に新旧の比較や変化を強調したい場合に限定されます。
- 「従来の方法とは違うやり方を試してみた」
ビジネスシーンでの使い分け
ビジネスシーンでは、「これまで」と「従来」が多用されます。
特に文書作成においては「これまで」が基本となります。
フォーマル度による使い分け
表現 | フォーマル度 | 適した場面 |
---|---|---|
今まで | 低(カジュアル) | 社内の会話、親しい取引先との対話 |
これまで | 中~高 | 会議、プレゼン、ビジネスメール、報告書 |
従来 | 高(専門的) | 提案書、比較資料、技術文書 |
文書の種類による使い分け
- ビジネスメール:「これまでご愛顧いただき誠にありがとうございます」
- 企画書:「従来の方式と比較して、新システムでは30%のコスト削減が見込まれます」
- 報告書:「これまでの販売実績を分析した結果、地方都市での需要拡大が確認できました」
時間的範囲と焦点による使い分け
これらの表現は、時間的範囲と焦点の置き方によっても使い分けられます。
- 「今まで」:個人的な体験や現在に至るまでの過程を強調
- 「これまで」:段階的な発展や積み重ねてきた実績に焦点
- 「従来」:過去のある時点や期間における状態・方法に焦点(現在との対比を含意)
よくある間違い & 誤用例
これらの表現は似ているために、使い方を間違えやすいポイントがあります。
典型的な誤用例と正しい使い方を見ていきましょう。
「今まで」の誤用
🚫 「本報告書では、今まで実施した調査の結果を報告いたします」
✅ 「本報告書では、これまで実施した調査の結果を報告いたします」
理由:公式文書では「これまで」を使うのがより適切です。
「今まで」はカジュアルな印象を与えるため、フォーマルな文書では避けるべきです。
「これまで」の誤用
🚫 「これまでのやり方は間違っていた」(変化を強調したい場合)
✅ 「従来のやり方は間違っていた」
理由:過去の方法や考え方を否定し、変化を強調する場合は「従来」がより適切です。
「従来」の誤用
🚫 「従来私はコーヒーが好きでした」
✅ 「今まで私はコーヒーが好きでした」
理由:個人的な好みや経験を述べる場合は「従来」ではなく「今まで」が自然です。
「従来」は一般的な状態や方法を指す表現です。
混同しやすいケース
🚫 「従来のご愛顧に感謝申し上げます」
✅ 「これまでのご愛顧に感謝申し上げます」
理由:継続的な関係性に対する感謝を述べる場合は「これまで」が適切です。
「従来」は過去の状態を現在と対比する際に使います。
文化的背景・歴史的背景
これらの表現の違いを理解するには、日本語における時間表現の特徴と、それぞれの言葉の成り立ちを知ることが役立ちます。
「今まで」の背景
「今」という字は現在の時点を表し、古くから日本語で使われてきました。
「今まで」という表現は、現在地点から振り返った時間経過を表すもので、日常会話の中で自然に発展した表現と考えられます。
「これまで」の背景
「これ」は指示詞で、話し手に近いものを指します。
時間軸においても、話し手の立つ現在から過去を指し示す際に使われます。
「これまで」は比較的フォーマルな文脈で使われるようになり、特に明治以降の公文書や文語体の文章で多用されるようになりました。
「従来」の背景
「従来(じゅうらい)」は漢語由来の表現で、「従(したが)う」と「来(き)たる」という漢字からなります。
過去から連なって今に至る様子を表しています。
特に明治時代以降、西洋の概念や制度を導入する際に、新旧を対比する表現として定着しました。
日本の伝統的な文書では、時間の経過よりも状態の変化に焦点を当てる傾向があり、「従来」はそうした日本語の特性を反映した表現と言えます。
実践的な例文集
それぞれの表現の違いをより理解するために、様々な文脈での例文を見ていきましょう。
日常会話での例文
「今まで」の例文
- 「今まで一度も富士山に登ったことがありません」
- 「今まで食べた中で、このラーメンが一番おいしい」
- 「今まで何度も失敗したけど、今回こそ成功させたい」
「これまで」の例文
- 「これまでの人生で最も印象に残っている出来事は何ですか」
- 「これまで培ってきた経験を活かしたいと思います」
- 「これまでと同じ方法では解決できないでしょう」
「従来」の例文
- 「従来の考え方を一度見直す必要があります」
- 「従来の製品と比べて、新モデルは省エネ性能が大幅に向上しています」
- 「従来の常識にとらわれない発想が求められています」
ビジネスシーンでの例文
ビジネスメールでの使用例
- 「これまでご支援いただき、誠にありがとうございます」
- 「従来のシステムに関する問題点を別紙にてまとめました」
- 「これまでの取引実績を踏まえ、新たなご提案をさせていただきます」
会議・プレゼンでの使用例
- 「これまでの売上データを分析した結果、次のような傾向が見えてきました」
- 「従来の営業手法では対応しきれない課題が増えています」
- 「これまで築いてきた信頼関係を大切にしながら、新規市場の開拓を進めます」
文書作成での使用例
- 「本報告書では、これまでの研究成果と今後の展望について述べる」
- 「従来の技術と比較した新技術の優位性を示す」
- 「これまでの経緯と今後の対応策について説明いたします」
言い換え表現
状況に応じて、これらの表現は他の言葉に言い換えることも可能です。
「今まで」の言い換え
- 「これまで」(よりフォーマルにする場合)
- 「今日まで」(特定の日までの経過を強調)
- 「今に至るまで」(文学的表現)
「これまで」の言い換え
- 「今日に至るまで」(より格式高い表現)
- 「現在まで」(客観的な時間経過を示す)
- 「先日来」(最近の経過を示す場合)
「従来」の言い換え
- 「これまで」(一般的な時間経過を示す場合)
- 「旧来」(より古い時代を強調)
- 「伝統的に」(長い歴史を持つ方法や考え方の場合)
まとめ
「今まで」「これまで」「従来」はいずれも過去から現在までの時間や状態を表しますが、それぞれに異なるニュアンスと使用場面があります。
覚えておきたいポイント
- 「今まで」:主観的・個人的な時間経過を表す。日常会話やカジュアルな場面で使用。
- 「これまで」:客観的・形式的な時間経過を表す。ビジネス文書や公式な場面に適する。
- 「従来」:過去の状態や方法を指し、現在との対比を含意。変化や革新を述べる際に使用。
- フォーマル度:「今まで」(カジュアル)<「これまで」(標準・フォーマル)<「従来」(専門的・対比的)
- 使い分けの鍵:個人的経験か客観的事実か、単なる時間経過か状態の変化か、を意識する。
適切な表現を選ぶことで、より正確で洗練された日本語を使いこなすことができます。
状況や文脈に応じて、これらの表現を効果的に使い分けましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1: 「今まで」と「今までに」の違いは何ですか?
A: 「今まで」は「~していない」など否定形と共に使われることが多く、継続的な状態を表します。
一方、「今までに」は「~したことがある」など経験を表す表現と共に使われ、過去のある時点での出来事を表します。
例:
- 「今まで海外に行ったことがない」(継続的な状態)
- 「今までに3回海外に行ったことがある」(経験)
Q2: ビジネス文書では常に「これまで」を使うべきですか?
A: 基本的にビジネス文書では「これまで」が適切ですが、内容によっては「従来」も使います。
特に過去の方法や状態を現在と対比する場合は「従来」がより適切です。
文書の性質や伝えたいニュアンスに応じて選びましょう。
Q3: 「従来通り」と「これまで通り」はどう違いますか?
A: 「従来通り」は確立された方法や慣習を継続することを強調し、変化がないことを示します。
「これまで通り」も継続を表しますが、時間的な経過を重視する表現です。
例:
- 「業務は従来通りの方法で行います」(確立された方法の継続)
- 「これまで通りの関係を維持したい」(時間的継続性)
Q4: 英語に訳す場合、どのような違いがありますか?
A: 一般的に、「今まで」「これまで」は “until now” や “so far” に相当します。
「従来」は “conventionally” や “traditionally” に近いニュアンスを持ちます。
ただし、文脈によって適切な訳語は変わります。
- 今まで:until now, so far(個人的経験の場合)
- これまで:up to this point, thus far(客観的事実の場合)
- 従来:conventionally, traditionally, previously(過去の方法や状態)
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