「検討します」と「考えておきます」では、同じように思えて実は大きな違いがあります。
ビジネスシーンや日常会話で、これらの言葉を適切に使い分けることで、コミュニケーションの質が大きく向上します。
本記事では「検討する」と「考える」の本質的な違い、適切な使い分け方、よくある誤用例などを詳しく解説します。
結論からいえば、「検討する」はより組織的・多角的に分析する行為を指し、「考える」は個人的な思考プロセスを意味します。
状況や目的に応じた適切な使い分けを身につけて、より正確で効果的なコミュニケーションを目指しましょう。
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「検討」と「考える」の基本的な意味の違い

「検討する」と「考える」は、どちらも思考に関わる行為を表す言葉ですが、そのニュアンスと適用範囲には明確な違いがあります。
「検討する」の意味
「検討する」は「検(調べる)」と「討(論じる)」という漢字からなり、物事を多角的に調査・分析し、議論や検証を経て結論を導く過程を指します。
この言葉には「組織的」「体系的」「多面的」といった特徴があります。
例えば、企業での意思決定や政策立案において「検討する」という言葉が使われる場合、単なる個人的思考ではなく、データ収集、分析、関係者との協議、メリット・デメリットの評価など、複数のステップを経て結論に至るプロセス全体を意味します。
「考える」の意味
一方、「考える」はより広義で一般的な思考活動を表し、特定の方法論や体系性を必ずしも含みません。
個人の内面的な思考プロセスを指すことが多く、日常的な思索から哲学的な思考まで幅広く使用されます。
「考える」は必ずしも結論を出すことを前提としておらず、思索そのものを表現する場合もあります。
「人生について考える」「将来を考える」などの表現がその例です。
たとえで理解する違い
「検討する」と「考える」の違いは、料理に例えるとわかりやすいでしょう。
- 考える:レシピを見ながら「今日の晩御飯は何にしようかな」と頭の中で思いを巡らせる行為
- 検討する:家族の好み、冷蔵庫の中身、栄養バランス、調理時間などの要素を総合的に分析し、複数の候補から最適な献立を選ぶプロセス
使い分けのポイント

「検討する」と「考える」を適切に使い分けるには、状況やコンテキスト、コミュニケーションの目的を理解することが重要です。
フォーマル度による使い分け
状況 | 「検討する」の適切性 | 「考える」の適切性 |
---|---|---|
ビジネス文書 | ◎ 非常に適切 | △ やや不適切 |
公式会議 | ◎ 非常に適切 | ○ 状況による |
カジュアルな職場会話 | ○ 適切 | ◎ 非常に適切 |
プライベートな会話 | △ やや堅苦しい | ◎ 非常に適切 |
意思決定プロセスの段階による使い分け
「検討する」と「考える」は、意思決定プロセスの異なる段階で使い分けるのが効果的です。
- 初期段階(アイデア出し)
- 「まずはアイデアを考えてみましょう」
- この段階では自由な発想が重要なため、「考える」が適切
- 分析段階
- 「各案のメリット・デメリットを検討しましょう」
- 多角的な分析を行う段階では「検討する」が適切
- 決定段階
- 「全ての要素を検討した結果、A案を採用します」
- 最終的な意思決定においては「検討」の結果として結論を出す
組織規模による使い分け
- 個人的な決断: 「どの大学に進学するか考えている」
- 少人数グループ: 「チームでプロジェクトの進め方を考えている」
- 部門レベル: 「部門内で新サービスについて検討している」
- 企業全体: 「経営会議で次年度の戦略を検討している」
よくある間違い & 誤用例

「検討する」と「考える」の誤用は、特にビジネスシーンでよく見られます。
適切な使い分けを理解することで、より効果的なコミュニケーションが可能になります。
誤用例1: 責任の所在を曖昧にする場合
🚫 「ご提案については個人的に検討します」
✅ 「ご提案については個人的に考えておきます」
理由: 「検討」は組織的・体系的なプロセスを示唆するため、個人的な文脈では不自然です。
誤用例2: 即答できない場合の言い換え
🚫 「すぐに答えられないので考えておきます」(ビジネス文脈での返答として)
✅ 「詳細を検討した上で回答いたします」
理由: ビジネスシーンでは「考えておく」よりも「検討する」の方が、しっかりとした分析を行う意思を示せます。
誤用例3: 重要度の低い案件での使用
🚫 「コーヒーを注文するか検討します」
✅ 「コーヒーを注文するか考えます」
理由: 日常的な小さな決断に対して「検討」は大げさであり、不自然です。
誤用例4: 組織の決定を個人的表現で伝える
🚫 「会社としては値下げを考えています」
✅ 「会社としては値下げを検討しています」
理由: 組織的な意思決定プロセスには「検討」の方が適切です。
文化的背景・歴史的背景

「検討」と「考える」の違いは、日本の組織文化や意思決定プロセスの発展と密接に関連しています。
「検討」の成り立ち
「検討」という言葉は、中国から伝わった漢語をベースにしていますが、日本の企業文化の中で独自の発展を遂げました。
高度経済成長期に日本企業が採用した「稟議制度」(組織内で段階的に承認を得る意思決定システム)の普及とともに、「検討」は単なる思考ではなく、組織的な分析と承認のプロセスを意味するようになりました。
「考える」の文化的位置づけ
一方、「考える」は古来から日本語に存在する基本的な動詞であり、個人の内面的な思考活動を表す言葉として使われてきました。
日本文化における「省察」や「熟考」の伝統と結びついており、禅仏教における「思案」の概念とも関連しています。
現代社会における変化
近年のグローバル化やスタートアップ文化の普及により、従来の組織的意思決定プロセスがよりアジャイルなものへと変化しています。
それに伴い、「検討する」と「考える」の境界も以前より柔軟になりつつあります。
特に若い世代においては、以前ほど厳密な使い分けをしない傾向も見られます。
実践的な例文集

ビジネスシーンでの使用例
会議での発言
- 「この案については、コスト面と実現可能性の両方から検討する必要があります」
- 「まずは自由に解決策を考える時間を設けましょう」
ビジネスメール
- 「ご提案いただいた件につきまして、社内で検討させていただき、来週中に回答いたします」
- 「今後の方向性について考える良い機会をいただき、ありがとうございます」
上司への報告
- 「複数の選択肢を検討した結果、A案が最も効果的だと判断しました」
- 「問題の原因について考えたところ、システムの不具合が関係していると思われます」
日常会話での使用例
友人との会話
- 「今週末の旅行先を考えているんだけど、何かおすすめある?」
- 「引っ越しを検討していて、いくつか物件を見てまわっているところなんだ」
家族との会話
- 「夏休みの家族旅行について検討しよう。みんなの希望を聞かせて」
- 「晩御飯、何にしようか考えているところなんだけど…」
学校での使用例
- 「グループプロジェクトのテーマを全員で検討しましょう」
- 「この問題の解き方をよく考えてみてください」
まとめ
「検討する」と「考える」は、一見似ているようで異なる思考プロセスを表す重要な言葉です。
適切な使い分けを理解することで、コミュニケーションの質と効果を高めることができます。
覚えておきたいポイント
- 「検討する」:組織的・体系的・多角的な分析プロセスを指す
- 「考える」:個人的・内面的な思考活動を表す
- フォーマルな場面では「検討する」が適切なことが多い
- カジュアルな場面では「考える」が自然な選択肢となる
- 組織的な意思決定には「検討する」が適している
- 個人的な思索には「考える」が適している
状況に応じた適切な言葉の選択は、ビジネスシーンでの信頼性向上や、日常会話でのコミュニケーションをスムーズにする鍵となります。
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よくある質問(FAQ)
Q1: 「検討します」と言ったら、必ず結論を出さなければいけませんか?
A: 「検討します」という表現には、一定の分析プロセスを経て結論や回答を出す意図が含まれています。
特にビジネスシーンでは、単に考えるだけでなく、何らかのアクションや決定につながることが期待されています。
ただし、検討した結果「現時点では判断保留」という結論になることもあります。
Q2: 「考えておきます」は断り文句になりますか?
A: 文脈によります。
ビジネスシーンでは「考えておきます」が曖昧な返答や婉曲的な断りとして受け取られることがあります。
より具体的な対応を示したい場合は「検討します」や、いつまでに回答するかを明示するとよいでしょう。
Q3: 英語ではどのように表現し分けるのですか?
A: 英語では「検討する」は “consider”、”examine”、”review” などが相当し、より正式なプロセスを示す場合は “evaluate” や “assess” も使われます。
一方、「考える」は “think about”、”ponder”、”reflect on” などに相当します。
Q4: 「再検討」と「考え直す」の違いは何ですか?
A: 「再検討」は一度分析・評価したことを、新たな情報や観点を加えて再度組織的に見直すことを意味します。
「考え直す」は個人的な視点や判断を改めることを指し、よりカジュアルなニュアンスがあります。
Q5: 学術論文では「検討」と「考察」どちらを使うべきですか?
A: 学術論文では「考察(consideration/discussion)」が一般的です。
「検討」は現実的な意思決定プロセスを指すことが多いのに対し、「考察」は学術的な分析や理論的検証を意味します。
研究内容や分野によって適切な用語は異なるため、同分野の論文表現も参考にするとよいでしょう。