「申し上げます」と「いたします」の使い分けに迷った経験はありませんか?
実は、この2つの表現には敬語の基本動詞と使用場面に明確な違いがあり、正しく使い分けることでビジネスシーンでの信頼度が大きく向上します。
この記事でわかること
✓ 「申し上げます」と「いたします」の根本的な違い
✓ 「言う」と「する」による判断基準と使い分けルール
✓ よくある間違いと正しいビジネス例文
✓ 相手との関係性・場面による敬語レベルの使い分け
「申し上げます」と「いたします」の根本的な違い
「申し上げます」の語源と特徴
「申し上げます」は平安時代の「申す(もうす)」に由来し、「言う」の謙譲語として発達しました。
「申し上げる」は「言わせていただく」という意味で、相手に対して発言・表明する際の丁寧な表現です。
語源の成り立ち
- 「申す」:「言う」の古語、謙譲の意味を含む
- 「上げる」:敬意を示す補助動詞(相手を上位に位置づける)
- 「ます」:丁寧語として現代的な敬語を完成
主な特徴
- 発言・表明の場面:相手に向けた言葉や意思の伝達時
- 相手が前提:必ず「誰かに対して」言う場合に使用
- 高い敬語レベル:格式ばった場面や重要な発言時
「いたします」の語源と特徴
「いたします」は江戸時代の商人言葉から発展し、「する」の謙譲語として確立されました。
「いたす」は「行う・実行する」という意味で、様々な行動や動作を丁寧に表現します。
語源の成り立ち
- 「致す」:「する」の謙譲語、行動・動作を表す
- 「ます」:丁寧語として敬語を完成
主な特徴
- 行動・動作全般:具体的な作業や業務の実行時
- 汎用性の高さ:単独でも成立し、幅広い場面で使用
- 標準的な敬語レベル:日常的なビジネスコミュニケーションに最適
2つの言葉の本質的違い
項目 | 申し上げます | いたします |
---|---|---|
基本動詞 | 言う・述べる・表明 | する・行う・実行 |
敬語の成り立ち | 言う+謙譲+敬意 | する+謙譲 |
使用場面 | 発言・報告・挨拶・表明 | 行動・作業・サービス提供 |
相手の必要性 | 必須(対象者が前提) | 不要(単独行動も可) |
格式レベル | 高(正式・重要な場面) | 中(日常的な業務) |
使用頻度 | 限定的・特定場面 | 高頻度・汎用的 |
実践的な使い分けルール
基本判断基準:「言う」か「する」か
「申し上げます」を使う判断基準
- 置き換えテスト:「○○と言います」で文が成立するか?
- 相手の存在:明確な相手(聞き手)がいる発言か?
- 発言内容:感謝・謝罪・報告・挨拶などの表明か?
「いたします」を使う判断基準
- 置き換えテスト:「○○をします」で文が成立するか?
- 具体的行動:物理的・精神的な動作や作業か?
- 継続性:日常的・継続的な業務や行為か?
具体的な使い分けパターン
「申し上げます」の適用場面
- 感謝・謝罪の表明
- 「心より感謝申し上げます」(感謝の気持ちを言う)
- 「深くお詫び申し上げます」(謝罪の意思を表明する)
- 報告・連絡の開始宣言
- 「ご報告申し上げます」(報告内容を言う)
- 「ご連絡申し上げます」(連絡事項を述べる)
- 正式な挨拶・祝辞
- 「お祝い申し上げます」(祝意を表明する)
- 「お見舞い申し上げます」(見舞いの気持ちを伝える)
「いたします」の適用場面
- 具体的な業務行動
- 「資料を作成いたします」(作成という作業をする)
- 「会議を設定いたします」(設定という行為をする)
- サービス・対応の提供
- 「対応いたします」(対応という行動をとる)
- 「確認いたします」(確認という作業を行う)
- 物の移動・送付
- 「添付いたします」(添付という動作をする)
- 「送付いたします」(送付という行為をする)
迷いやすい表現の判断方法
二重の意味を持つ表現
- 「連絡」:連絡内容を言う→申し上げます/連絡行為をする→いたします
- 「報告」:報告内容を述べる→申し上げます/報告業務をする→いたします
- 「お願い」:依頼内容を言う→申し上げます/依頼行為をする→いたします
実用的な判断コツ
- 文脈重視:何を強調したいか(内容vs行為)
- 相手との関係:格式重視なら「申し上げます」、親しみやすさなら「いたします」
- 文章のバランス:同じ表現が続く場合は使い分ける
よくある間違いと正解例
間違いやすいパターン1:行動に「申し上げます」を誤用
❌ 間違い例:「資料を準備申し上げます」
✅ 正しい例:「資料を準備いたします」
💡 解説:「準備」は具体的な作業行為なので「いたします」が適切。「申し上げます」は発言・表明に限定
間違いやすいパターン2:表明に「いたします」を誤用
❌ 間違い例:「感謝いたします」
✅ 正しい例:「感謝申し上げます」
💡 解説:感謝は気持ちの表明・発言なので「申し上げます」が自然。ただし「感謝の気持ちをお伝えいたします」なら可
間違いやすいパターン3:敬語の過度な重複
❌ 間違い例:「ご連絡をさせていただき申し上げます」
✅ 正しい例:「ご連絡申し上げます」または「ご連絡いたします」
💡 解説:複数の敬語表現が重複すると不自然。シンプルで明確な表現を選択
間違いやすいパターン4:場面に不適切な敬語レベル
❌ 間違い例:(日常メールで)「些細な質問でございますが、お教え申し上げます」
✅ 正しい例:「ご質問がございます」「教えていただけますでしょうか」
💡 解説:「申し上げます」は相手に何かを言う時の表現。質問する時は「いただく」系を使用
ビジネス・公式文書での使い分け
メール場面別の使い分け戦略
取引先への重要報告メール
件名:四半期業績についてのご報告
いつもお世話になっております。
株式会社○○の△△です。
この度、第3四半期の業績についてご報告申し上げます。
売上高は前年同期比15%増となり、目標を上回る結果と
なりましたことをご報告いたします。
詳細な資料を添付いたしますので、ご確認のほど
よろしくお願い申し上げます。
ご不明な点がございましたら、お気軽にお声がけください。
今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。
日常的な業務連絡メール
件名:会議資料の送付
お疲れ様です。
明日の企画会議の資料を添付いたします。
事前にご確認いただき、ご不明な点やご意見が
ございましたら、お聞かせください。
何かございましたら、お気軽にお声がけください。
よろしくお願いいたします。
公式文書・契約書での使い分け
契約書・正式文書では
- 「申し上げます」:条件や方針の正式表明、重要事項の宣言
- 「いたします」:具体的な義務履行、責任の実行、サービス提供
プレゼンテーション・提案書では
- 冒頭の宣言:「ご提案申し上げます」(提案内容を述べる)
- 具体的説明:「説明いたします」「分析いたします」(説明行為を行う)
報告書・議事録では
- 報告の開始:「ご報告申し上げます」(報告内容を言う)
- 具体的記録:「記録いたします」「整理いたします」(記録作業をする)
敬語レベルによる使い分け指針
最高敬語レベル(社外・重要案件)
- 基本:「申し上げます」優先
- 補助:必要に応じて「いたします」併用
標準敬語レベル(日常業務・社内)
- 基本:「いたします」メイン
- 補助:重要な表明時のみ「申し上げます」
親しみやすさ重視(チーム内・継続関係)
- 基本:「いたします」中心
- 表現バリエーション確保のため適度に混在
実践的な見分け方のコツ
3秒で判断できる見分け方
ステップ1:動詞確認法
- 「○○と言う」で置き換え可能 → 「申し上げます」
- 「○○をする」で置き換え可能 → 「いたします」
- 両方可能 → 文脈・相手・場面で判断
ステップ2:相手・場面確認法
- 相手に向けた発言・表明 → 「申し上げます」
- 単独でも成立する行動 → 「いたします」
- 正式・重要な場面 → 「申し上げます」優先
ステップ3:自然さテスト
- 声に出して読んでみる
- 時代劇のような大げささがないか確認
- 相手が受け取って違和感がないか想像
迷った時の実用チェックポイント
「申し上げます」チェックリスト
□ 相手に向けた発言・意思表明か?
□ 感謝・謝罪・祝辞・報告などの表明か?
□ 正式・重要な内容を伝えているか?
□ 「○○と言います」で置き換え可能か?
「いたします」チェックリスト
□ 具体的な行動・作業・サービス提供か?
□ 継続的・日常的な業務か?
□ 「○○をします」で置き換え可能か?
□ 相手がいなくても成立する行為か?
両方使える場合の選択基準
- 格式重視 → 「申し上げます」
- 親しみやすさ重視 → 「いたします」
- 文章のバランス → 使い分けて自然な流れを作る
関連表現との違い
「させていただきます」との使い分け
- 申し上げます:相手への発言・表明(自発的な意思表示)
- いたします:自発的な行動の実行(主体的な行為)
- させていただきます:相手の許可・恩恵を前提とした行動
使い分け例
- 「ご報告申し上げます」(報告内容を述べる)
- 「報告いたします」(報告業務を行う)
- 「報告させていただきます」(許可を得て報告する)
「ございます」との使い分け
- 申し上げます・いたします:動的な行為(動詞の謙譲語)
- ございます:状態・存在の丁寧な表現(「ある」の謙譲語)
使い分け例
- 「質問がございます」(質問が存在する状態)
- 「質問申し上げます」(質問内容を言う行為)
- 「質問いたします」(質問する行動)
「お伺いします」との使い分け
- 申し上げます:相手に何かを伝える・表明する
- いたします:一般的な行動を行う
- お伺いします:相手のもとを訪ねる・質問する(特定の行為)
まとめ
「申し上げます」と「いたします」の違いと使い分けのポイント
✅ 基本的な違い:「言う」の謙譲語 vs「する」の謙譲語
✅ 申し上げます:相手への発言・表明・意思表示(感謝、謝罪、報告、挨拶)
✅ いたします:具体的な行動・作業・サービス提供(準備、確認、送付、対応)
✅ 判断基準:「○○と言う」か「○○をする」かで基本判断
✅ 使い分けコツ:格式重視なら「申し上げます」、日常業務なら「いたします」
正しい敬語の使い分けを身につけて、相手に応じた適切で信頼される丁寧なコミュニケーションを実現しましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1:「お礼申し上げます」と「お礼いたします」どちらが正しい?
A:「お礼申し上げます」が正しい表現です。
お礼は相手に向けた感謝の表明・発言なので「申し上げます」を使用します。
「お礼いたします」は文法的に不自然です。
Q2:メールで「申し上げます」と「いたします」が混在しても大丈夫?
A:全く問題ありません。
むしろ同じ表現ばかりを使うと文章が単調になるため、適度に使い分ける方が自然で読みやすいメールになります。
ただし、一つの文で両方使うのは避けましょう。
Q3:「報告申し上げます」と「報告いたします」の使い分けは?
A:両方とも正しい表現です。
「報告申し上げます」は報告内容を述べる(言う)ことを強調し、「報告いたします」は報告業務を行う(する)ことを強調しています。
重要な内容なら前者、日常業務なら後者がおすすめです。
Q4:相手によって使い分けるべき?
A:基本的には表現の意味で判断しますが、格式を重視したい重要な相手には「申し上げます」を多めに、親しみやすい関係なら「いたします」を中心に使うと良いでしょう。
ただし、間違った使い方は避けてください。
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